塩田訴訟(高知県)の概要

2008年8月9日

 

 原告は2000年(平成12年)11月、2002年(平成14年)11月、2005年(平成17年)1月に個別指導を受け、指導後の措置はいずれも「再指導」とされた。

 しかし、一連の個別指導は極めて恣意的なものであり、指摘事項にも疑義があることから、3回目の個別指導後に社会保険事務局に対し質問状を提出した。

 社会保険事務局は、高知行政評価事務所の「説明を行うように」という斡旋をも無視し、質問にまともに答えないまま、2006年(平成18年)12月に患者調査を実施、2007年(平成19年)3月6日から監査を開始した。

 監査の前提となった患者調査は、

(1)障害者に対して2時間に渡り執拗な聴取をくり返す、

(2)患者本人ではなく看護師長に聴取するなど、

杜撰な調書作成であった。

 監査は3月6日から5月31日まで8日間にわたっておこなわれたが、その内容は、杜撰な患者調書基づいて追及が行われるとともに、歩行困難な患者について、その患者調書にも記載のない「『一人でバスに乗って病院に通院している』ので訪問診療は不正」などの虚偽の追及を行う、「脳性麻痺の障害がある者は、判断能力が欠如しているので、たとえ家族に指導の内容を説明しても算定要件をみたさない」という障害者の人権を侵害するなどのものであった。

 以上の経緯から、5月31日に実施された監査の冒頭、同席した弁護士が、手続が違法であることから監査の中断を求めるとともに、前提となる事実について争うのであれば、司法の判断を求めるしかない旨を通告した。

 2007年(平成19年)7月2日、原告は監査の違法性を明らかにするために高知地方裁判所に提訴した。

 すでに4回の弁論が開かれたが、第1回目の監査で「2006年(平成18年)8月の患者情報により不当・不正が疑われる」としていた監査理由は、被告第3準備書面では「監査要綱第3の1ないし3に該当」に変更され、「患者調査により不正が窺われる事実」として論証を試みているのは3例に過ぎず、いずれも患者調書の内容に矛盾が見られるなど根拠に欠けるものである。

 被告は準備書面で、

(1)個別指導での指摘事項の改善が行われれば問題ないとすると、医療機関は指導の抜け道を探して不当・不正な行為をすることが許されることになる、

(2)監査要綱に規定する監査要件を欠いていたとしても国賠法上違法とはならない、

(3)患者調査に違法があっても監査が違法とはならない、

(4)患者調査書に不正・不当請求に関する事実がないからといって、監査の要件がないということにはならないなど、

違法な患者調査を行い、不正・不当の事実がなくても監査を行うのは厚生労働大臣の裁量であり違法とはならない、と強弁している。

 

 

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