厚生労働省の「隠蔽体質」

 「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(以下「法」)は、「国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的」(第1条)としており、誰でも行政文書等の情報を開示請求することができる。

 しかし行政庁は簡単に情報を開示しようとしない。

 ある保険医の取消処分に係る聴聞会の録音テープの開示請求について、某厚生局は「不存在」を理由に「不開示処分」とした事例がある。ところが同じ聴聞会の「議事録」には、聴聞の主宰者が「逐語的、且つ正確に、聴聞内容を記録しなければならないため、録音させていただきますので、ご了承いただきますようお願いしたいと思います。」と述べ、聴聞を開始していることが記録されている。
 行政庁にとって不都合な情報は「不存在」とすることで、真相は国民の目に触れることなく闇に葬ることができる。

 

 開示請求した行政文書が「不開示処分」となった場合には、行政不服審査法第5条の規定により処分庁の上級機関に対して審査請求を行うことができる。地方厚生局が行った処分に不服がある場合、審査請求の提出先は厚生労働大臣となる。
 審査請求に対して「不開示処分」を撤回し、当該文書を開示すればそれで終わるが、行政庁があくまでも不開示処分を維持しようと思えば、内閣府に設置された「情報公開・個人情報保護審査会」(以下「審査会」)に、不開示処分の妥当性について諮問しなければならない。
 審査会では、審査請求人と諮問庁双方の主張に基づいて審議を行い、諮問庁の判断が妥当か否かの答申を行うという手続がとられる。

 

 厚労省は指導や監査に関する情報開示に関して、「法第5条4項は、『公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼす』ものは不開示としており、詐欺等の犯罪の予防に支障を来す」等の理由から、不開示が妥当であるとの主張を行っている。つまり、「保険医や保険医療機関は不正・不当な行為を行うもの(=犯罪者)」との前提に立ち、「被疑者に捜査の手の内は見せられない」ということに他ならない。
 1922年(大正11年)に施行され、90年間その本質を変えることなく現代に生き続けている健康保険法令を根拠に実施される指導や監査が、「密室での取り調べ」という極めて異常な状況下にあるのも、こうした「戦前の思考」から抜け切らない体質が根底にある。

 

 他の省庁に比べ、厚労省の不透明な体質を示したのが下の表である。
 表は、独立行政法人を含む全省庁の2006年から2010年までの5年間、審査会に諮問された件数「トップ5」の答申結果等をまとめたものである。
 厚労省の諮問件数は防衛省、法務省に次いで3番目に多い。重要なのは、厚労省が「あくまでも開示しない」として諮問した結果、審査会がその判断を妥当としたものが59.3%と、全省庁平均78.4%に比べ極端に低いことである。

 ここにも厚労省の隠蔽体質が如実に表れている。
 各地で行われている行政文書等開示請求において、「不開示」となったからといってそこで引き下がれば何も変わらない。審査請求を積極的に行い、不開示処分の不当性について正面から議論を重ねることが、指導・監査の透明性を高める上でも有効な方法の一つといえる。

 

情報公開法に係る諮問数トップ5の「透明度」(2006年〜2010年の累計)



諮問省庁

諮問件数

答申件数 ①

【答申類型】(下表参照)

C÷

防衛省
1,010
1,065
25
140
900
84.5%
法務省
525
440
23
56
361
82.0%
厚生労働省
373
327
24
109
194
59.3%
外務省
283
280
4
86
190
67.9%
国土交通省
118
93
4
10
79
84.9%
全省庁合計
3,094
2,926
107
525
2,294
78.4%

情報公開・個人情報保護審査会資料より作成 

【答申類型】
A: 諮問庁の判断は 妥当でない としたもの
B: 諮問庁の判断は 一部妥当でない としたもの
C: 諮問庁の判断は 妥当である としたもの


 

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