監査のQ&A


 

Q1 医療機関などに対する監査は、どのような法律にもとづいておこなわれるのですか

監査は、健康保険法78条等に基づいて実施されます。(国民健康保険なども同内容)

同条は、保険医療機関や保険医などに対し、診療録や帳簿書類などの提示を命じ、職員による質問や検査などを行うことで、療養の給付や診療報酬の請求が適正に行われているか事実関係を把握するために行われるものです。


 

Q2 「監査は警察の取り調べのようだ」という話を聞きますが、本当にそうなのでしょうか

溝部訴訟や細見訴訟の事例に見られるように、精神的にも肉体的にも追い詰め、行政側の作成した一方的な監査調書に無理矢理署名させるという、人権を無視した過酷な監査が横行しています。

また塩田訴訟のように、捏造の疑いのある「患者調書」を認めさせるために執拗な追及をくり返すなど、「取消処分ありき」の監査が目につきます。

健康保険法78条2項は、関係者への質問や検査権を行使する際の権限について、「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と明確に規定しています。

人権無視の「密室での取り調べ」は、健康保険法第78条2項に抵触するものといわざるを得ません。


 

Q3 監査を受けると、必ず取消処分になるのですか

厚労省の資料によると、2002年(平成14年)から2006年(平成18年)までの監査及び取消件数は表のようになっています。

この5年間をみると、監査を受けた医療機関は医科254件で104件(38.5%)が指定取消処分、歯科は151件で84件(55.6%)が指定取消処分になっています。

同じく保険医は、医科767人・取消79人(10.3%)、歯科229人・取消98人(41%)となっています。



 

医 療 機 関

保 険 医

医 科

歯 科

医 科

歯 科

2002年
34(18)
19( 9)
127(15)
16(13)
2006年
36(19)
24(13)
158(13)
24(14)
2006年
56(27)
32(19)
110(13)
47(20)
2006年
52(25)
35(24)
182(21)
50(27)
2006年
76(15)
41(19)
190(17)
92(24)
254(104)
151(84)
767(79)
229(98)

 

Q4 監査から取消処分が決まるまでの手続きは、どのように行われるのですか

監査によって不正や不当の事実が明らかになると、その内容に基づきどのような行政措置(注意、戒告、取消)を行うか厚労省保険局長宛に「内議」を行います。

厚労省が取消処分が妥当と判断すれば行政手続法15条に基づき、処分の原因となる事実に対して意見陳述するための「聴聞」が開かれます。

それらの結果をもとに、地方社会保険医療協議会に取消処分の諮問を行い、答申を得て処分が決められる仕組みになっています。


 

Q5 保険診療や請求について些細な誤りは避けられないと思いますが、これらも「不正請求」となるのでしょうか

不正請求とは、診療の実態がないのに保険請求するいわゆる「架空請求」などの詐欺的行為をいいます。

ところが最近の事例では、保険請求の算定ルールの誤りや、カルテへの未記載を「架空請求」と決めつけ取消処分の理由にするケースが見受けられます。

これでは、審査支払機関から査定を受けただけで「不正請求」ということにもなりかねません。


 

Q6 患者調査による風評被害で医院経営にも大きな打撃を被りますが、これは仕方ないことなのでしょうか

当支援ネットに寄せられている事例は、いずれも社会保険事務局が「不正請求」の裏付けとなる患者さんの証言を得ようと、悪質な誘導尋問を行ったり、体の不自由な高齢者に対し長時間にわたり質問をくり返すなど違法な患者調査が行われています。

当然、患者さんが減るなど深刻な経済的被害をもたらしました。

このような患者調査について広島地方裁判所は、「患者に対する実態調査は無制限に行われてよいものではなく、一定の限度があって、特に調査の対象となった医師の名誉、信用を損なわないように配慮しなければならず、また医師の治療方法にまで介入してはならない」として、当該調査が
①取消処分を前提に80名もの患者を対象に徹底した調査が行われたこと、
②調査の程度、内容も極めて追及的で、原告が何か不正を行っているのではないかと疑念を抱かせるものであったこと、
③医師である原告の治療方法を批判するような口調でなされたこと
などを指摘し、被告の広島県に対し患者調査による減収分160万円余りの支払を命じる判決を下しています。(広島地裁 昭和49年(ワ)第829号、判決日付 昭和55年2月28日))


 

Q7 不正請求が明らかになった場合、それが僅かな金額でも一律に5年間の取消処分になるのですか

食中毒事件を起こした飲食店などが、食品衛生法に基づいて受ける「営業停止処分」はせいぜい3日から1週間です。

また、地方公共団体などの指名業者が、入札などで虚偽記載を行った場合の指名取消は「1月以上6月以内」、最も悪質とされる故意による「粗雑工事」は「12月以上24月以内」、最近国土交通省が「談合」があったとして建設業法違反で指名取消を行ったのは「1カ月」でした。

このような処分に比べ、医療機関の取消処分が「一律5年間」というのは、著しく公平性に欠けます。

細見訴訟で神戸地方裁判所は、厚生労働大臣の裁量権について、「処分理由となった行為の態様、回数、頻度、動機、故意又は過失の程度、利得の有無及びその金額、違反行為の内容と処分との均衡、他の事案との均衡等の諸事情を勘案すると、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には、その裁量権の範囲を逸脱し又は濫用があったものとして違法となると解するのが相当である」とした上で、
(1)医院の廃業に加え、5年間にわたり勤務医の道を閉ざすことは、原告の行為に対する処分としてはあまりに酷、
(2)個別指導によって教導する余地もあったと考えられ、戒告等の選択も可能であった
と指摘し、取消処分は「被告の裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったものとして違法というべきである」という画期的な判断を示しました。


 

Q8 処分に不服がある場合は、どのような手だてがありますか

行政事件訴訟法25条に基づく「執行停止」決定については、東京地裁や岡山地裁でも、処分の執行停止を求める抗告人の訴えが認められています。

また、奈良地裁が訴えを却下したものの大阪高裁で原決定を取り消し、処分の執行停止を決定した事例もあります。(2006年(平成18年)1月20日)

溝部訴訟は、社会保険医療協議会が「取消処分妥当」の答申を行った直後に、取消処分の「執行停止」を求める申立を行った事例です。

甲府地方裁判所は、「平等原則や比例原則に照らし、処分が適法であることに疑問の余地がないとまでは即断できない」として原告の申立を認める決定を行いました。


 

 


個別指導のQ&A



#01

医療機関などに対する個別指導はどのような法律に基づいておこなわれるのですか


#02

個別指導は具体的にはどのように行われるのですか


#03

個別指導は誰が行うのですか


#04

個別指導は行政手続法で規定する行政指導と理解していいのでしょうか


#05

個別指導の場で改善を求められたことに納得ができない場合は、それに従う必要はないのですか


#06

指導に従わなかった場合、それを理由に不利益な取扱が心配なのですが


#07

「個別指導実施通知書」が来ると、従わなければならないような威圧を感じるのですが


#08

「指導実施通知書」で呼び出された日が不都合な場合、日時の変更は申し出ることができるのですか


#09

指定された持参物が多くて準備が大変ですが、持参物は強制ですか


#10

個別指導で、指導する側に診療録など関係書類を閲覧する権限はあるのですか


#11

個別指導の内容について録音することはできますか


#12

個別指導に弁護士と一緒に行ってもいいのでしょうか


#13

指導後はどのような措置があるのでしょうか

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