現在の保険診療の骨格は、1922年(大正11年)に制定された健康保険法に基づいて運営されています。
同法は、施行から80年経過した2002年(平成14年)に「カタカナ書き・文語体から、ひらがな書き・口語体」に表記が改められましたが、その内容は86年前と何ら変わりません。制度の運営は恣意的で、徹底した一罰百戒的な思想と構造で貫かれており、同法には国民医療を担う保険医の地位や権利に関する規定はありません。
本来、法に規定された内容を実施するためには、法に次ぐ「規則」や「告示」等によって具体的な内容・細目を定めて行くのが通例です。しかし保険医等に対する「指導」や「監査」については、こうした手続ではなく最下級の「通達・通知」のレベルで具体的な手順を決定する手法がとられています。ここに、本来の「行政指導」や「検査」の権限を逸脱した、違法な「取り調べ」が行われる背景があります。
保険医等に対する指導や監査の現場に同席した弁護士は、「いまだにこの国でこのような世界があることに驚く。まさに暗黒の中世そのものだ」と、法律の専門家の常識からは理解しがたい世界が存在することに驚いています。このような世界が放置された結果保険医の自殺という痛ましい事件が連綿と続いています。
健康保険法が制定されてまもなく90年になります。
この間、国のあり方を大きく変える現憲法や、行政手続法、個人情報保護法の制定など、個人の人権や尊厳を守るための法律が整備されてきましたが、医療保険の分野はこの流れから大きく取り残されてきました。このような前近代的な状況を放置したままでは、憲法25条に根ざした「国民本位の医療」は実現されません。
近年、行政の裁量権を逸脱した保険医療機関指定取消処分などに対し、司法の場で争う事例が生まれ、甲府地裁での執行停止や神戸地裁で原告勝訴の画期的判決が下されています。去る2008年(平成20年)8月3日、こうした闘いを支援するためのネットワークを結成し、この度別紙のように支援集会を開催することとなりました。それぞれの訴訟は、90年来続いてきた暗黒の世界に現在の法理念の光をあて、行政のあり方を問う闘いでもあります。
世論形成に大きな影響力を持つメディア各社におかれましては、これらの歴史的な訴訟を通じて社会正義が実現するよう、ご協力賜れば幸いです。
2008年(平成20年)9月
当会について
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