行政庁の新たな「本音」発見〜地方厚生局の開示資料から

2009年10月9日

 2009年(平成21年)8月に、某地方厚生局に対して開示請求していた行政資料が10月になってやっと開示された。開示された資料を見る度に、「この人たちは日本が法治国家だということを知っているのか」という思いと、行政庁の新たな「本音」の発見に遭遇する。

公開の会議録も「黒塗り」

 地方医療協議会は原則公開で行われる。「社会保険医療協議会議事規則」について、参加した委員に説明をした企画調整課長も「協議会は原則公開、会長が正当な理由があると認めるときは非公開にすることができる」と説示している。

 しかし、公開で開催された医療協議会の議事録であるにもかかわらず、ホームページでも公にされている協議会会長をはじめ各委員の名前は全て「黒塗り」にされている。情報公開法が施行されて8年たつが、法律がどう変わろうが彼らの頭の中は「永遠に不変」のようである。

 

法律より「通知」を優先

 取消処分に関する議論でも、処分から5年を経過しない再指定について、「実際に再指定された事例はあるのか」という委員の質問に、指導管理官は「本省の通知に基づいて全国統一的な取扱をしており、例外として認められたことはない」と回答を行っている。

 ここでいう「本省の通知」とは、「国民健康保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法令の改正について」(平成10年7月27日 老発第485号、保発第101号)を指すようだが、同通知は「原則として取消後5年間は再指定を行わないものとする」と規定し、健康保険法65条3項の「指定しないことができる」という同法の趣旨を逸脱するものである。「通知による法解釈の歪曲」の典型ともいえる。法律より自分たちに都合よく作った「通知」を優先させる脱法行為が、平然とまかり通る世界だ。

 

膨大な資料を5分間で「精査」

 当時の取消処分の妥当性について、該当県の事務所長などが当日配布された「会議終了後回収」と書かれた膨大な資料に基づいて縷々説明を行っている。

 議事録で約10ページにわたる説明が終了した後、いよいよ委員による審議が始まる段階になったところで会長は、「説明も長くなり、経過も理屈も複雑で難しいから、若干時間をとって資料の精査を頂きたい」と、資料精査のための時間をとることを宣言。

 ところが「精査を頂きたいと言いながらも、5分間だけしか許されておりません」と、被処分者の弁明書や関係法令、訴訟資料など約170ページに及ぶ資料を「5分間で精査」することを求めている。いくら有能な委員でも目を通すことすら不可能な状況のもとで、厚生局の説明を鵜呑みさせ、準備した結論に導こうとする議事運営が見え見えである。

 

不都合な資料は「手元にない」

 それでも何人かの委員は核心をつく質問を行っている。取消処分の執行停止の申立を行い、地裁でも高裁でも処分の執行停止が認められた事例(本訴では被処分者が敗訴)について、「執行停止が認められた理由は何か」という、不利益処分の妥当性を判断する委員として当然の質問に管理課長は、「資料が手元にないので回答しかねる」と回答を拒否。

 さらに司法がどのような判断をしているのか知りたいという委員の重ねての質問に、「今回(の会議)は、『(再指定の)申請を認めるかどうか』ということで、『取消そのものが妥当かどうか』という裁判所の判決・判断とは違う」と開き直り。

 その上で、「裁判を起こさず淡々と5年待っている方もおり、裁判を起こして5年、6年になったから許されるということになれば、キチンとしている方との不公平感は当然あろうかと思う」と、司法制度を否定するようなすり替え答弁も飛び出している。

 第1回目の医療協議会では委員に厚生労働大臣の辞令が交付され、発令にあたって各委員は「国民全体の奉仕者として、高い倫理を保って行動する」旨の宣誓書に署名をしたことが議事録から窺える。委員に「高い倫理」を求める前に、まず自らの倫理感がどうなのか時間をかけて「精査」してもらいたいものである。

 

行政機関どうしの軋轢

 昨年(2008年)の10月から指導監査業務が地方厚生局に移管され、その出先である各県事務所では新たに「指導対象医療機関選定委員会設置要綱」が策定されたようだ。

 ある県の選定委員会では、この「設置要綱」を巡って県庁と県事務所との間で「縄張り争い」が演じられている。

 県の言い分は、①保険医療機関に対する指導権限は県知事にも付与されており、県の意見を聞かず設置要綱を一方的に決めたことは手続上問題、②選定委員会に参加する県の職員範囲を職名で指定しているが、それは本来県が決めるべきことであり、県知事の権限に対する不当な干渉である、というのがポイントのようである。県の思惑は別にして、厚生局の強引な手法は行政間でも軋轢を生んでいるようである。

 業務移管後最初に開かれた選定委員会では、厚生局長の訓辞として、「今後は厚生労働大臣の直轄の事務所で仕事を行うことになったということをガバナンスの面から強く受け止めて頂きたい」と、医療機関に対する「統治」の強化を求めているようである。「厚生労働省直轄」が、「無制限の権力」を得たと勘違いしているのではないか。

 

 

各種資料




訟務専門員の設置要項

保険指導医の設置要項



地方医療協議会議事録、原則公開へ2012年5月30日


行政庁の新たな「本音」発見〜地方厚生局の開示資料から 2009年10月9日


取消処分は違法 福島地裁 2009年3月24日


行政文書の開示請求をめぐって 2008年10月18日


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