「保険医切り」(取消処分)への手口が解き明かされる!
指導・監査12・23シンポジウムを開催

2008年12月23日

2008年(平成20年)12月23日、岡山県保険医協会の主催により「様変わりする指導・監査の現状と改善の課題」をテーマに「指導・監査12.23シンポジウム」が岡山市内で開かれ、高久隆範支援ネット代表世話人、細見雅美・暮石智英・塩田勉各原告、竹内俊一弁護士がそれぞれ報告を行った。シンポジウムには、医師・歯科医師など54名が参加した。

明らかになった「保険医切り」=取消処分の手口


 高久隆範支援ネット代表世話人(岡山県保険医協会指導監査対策室長)は、「『不正請求』をしていないにも関わらず、なぜ、取消処分がなされるのか。支援ネットが支えている4つの裁判を通じ、行政のやり口が明らかになった」として、「狙い撃ち」指導から監査、「保険医切り」=取消処分までの流れを解説。

 取消を前提として何度も繰り返される個別指導や患者調書ねつ造の実態、行政手続法を無視し不当な手続きで強行される取消処分など、行政のやり口を解明した。

 そして、「『不正をしていないから大丈夫』は通用しない。「保険医切り」(取消処分)は、どの先生にも降りかかる可能性があり、全国統一のシステムとして確立されている。今闘われている訴訟を支援することこそ、保険医である自分の人権を護ることに繋がる」と述べた。

 

患者さんに励まされて


 2008年(平成20年)4月、神戸地裁で画期的な判決を勝ち取った細見雅美原告は、「取消前提の厳しい監査を開業後2年目で受け、自分も新聞に載るような悪徳医者なのか?と驚いた。

 当初、知り合いの先生に『悪いことをしていないのだから、おとなしくしておけば大丈夫だろう』と言われたのを真に受け、また、指導の席で『あなたの言うことは何一つ信用できない』など暴言を吐かれたため言われるがままになっていると、結果、取消処分となった。その後、『監査の時に態度が悪かったから取消になったのだ』と言われたり、『あなたは人間性が悪いから取消になっても仕方がない』と法廷で一面識もない相手方証人から言われたりと人間性を否定するような言動に深く傷つけられた。

 処分後は精神的にも経済的にも全く支えのない、ひとりぼっちの状況となったが、『取消処分は絶対におかしい。先生の名誉を回復したい。先生に早く戻ってきてほしい。5年は長い。待てない』との患者さんからの支援や、処分の撤回を求める署名活動などの支えを頂き、提訴する決意をした。

 提訴の折、ある法律家から『行政訴訟は万に一つも勝てませんよ』と言われていたが、多くの方々の多大な尽力により、『万に一つ』の判決を頂くことができた。

 悪意や故意で「不正請求」をしなければ大丈夫なのか?監査の中で国は「レセコンの打ち間違えも不正請求」と言っている。日常診療でのちょっとしたミスでも取消にされてしまう。取消処分の際、励ましたり職の提案などをして下さったりと援助の手を差し伸べようとして下さった方々がいた。『ちょっとこの取消はおかしいのではないか』と思ったら、何かしらの援助をして頂くと心に響いて大変うれしい。」と、不当な取消処分から訴訟に至る経緯について報告するとともに、「あと1年で保険医に再登録できるが、多くの先生にこの実態を知ってほしいと思っている。今後も自らの経験を語っていきたい。」と、不当な監査・取消処分を許さない取り組みを、さらに大きな流れにする決意を述べた。

 

「最悪のウソで人を陥れる」


 塩田勉原告は、患者調書のねつ造発覚にも「何ら問題はない」と開き直るなど、「権力を持ち、嘘をついても何ら責任を問われない立場の人間が、最悪の嘘をついて人を陥れようとする」監査の違法性と、その違法性について係争中なのにも関わらず、それを無視し「正当な理由なく監査を拒否した」として取消処分前提の「聴聞」が強行されている現状を報告。

 「堂々と嘘を言う行政の動きを冷静に振り返ると、茶番劇をみているようだ。今行われている事実を、多くの方に知って頂きたい」と述べた。

 

訴訟の成果を指導の現場で生かす


 暮石智英原告は、近年、「不正請求」の定義が変更されたとして、地方社会保険医療協議会の内部資料を解説。「不正請求」とは、「知らなかった」とか「認識不足」など認識していたか否かは関係なく不正として扱う。また、過失であっても定められた診療行為によらなければ不正である」と定義されているとして、知らなかった、誤解していた、解釈を間違えていた、レセコン入力を間違えた、などが「不正請求」とされ、すべての保険医に監査取消への道が開かれていると述べた。

 また、今年(2008年)10月から指導監査業務の地方厚生局への移管に伴い、指導、監査件数が激増することが予想され、これまでのように「個別指導だから」と安穏としていたら、監査まで持ち込まれる危険性があると指摘した。

 その上で、自身の裁判などを通じて得られた大きな成果(①個別指導は行政指導であること、②指導の結果に従うか否かは任意であること、③指導への持参物は任意の協力であること)を生かし、個別指導の場で自らの権利を主張することの重要性を強調した。

 また、これまで指導の目的は保険の内容を周知徹底することとされていたが、現在、指導は「あら探し」の場、監査は「取り調べ」の場と化しているとして、不当な指導を許さない姿勢こそが大切であると述べた。

 

現在の構造を変える「支援ネット」


 高久隆範支援ネット代表世話人は、溝部訴訟を通じ、初めて明らかとなった「取消処分ありき」の計画的な「狙い撃ち」指導、監査、取消処分の流れを裏付ける決定的な証拠文書を紹介し、解説を行った。

 「狙い撃ち」指導監査が行われる背景には、この分野では40年以上全く抵抗がなされず、また抵抗不可能な構造がつくりあげられている現状があるとして、真面目に診療を行っている先生が救われない状況を変えていく支援ネットの重要性が強調された。

 さらに、行政の横暴に加担する勢力も白日の下にさらし、構造を変革しないと何度でも悲劇は繰り返されると述べた。また、訴訟の場だけではなく、各人が自分の問題として指導の場で勇気を持って立ち向かい、原告と連帯し、互いに支えあうことが重要であるとして、支援ネットへの加入を訴えた。

 

「闘い続ける」不屈のメッセージを


 竹内俊一弁護士は、これまで全国各地で取り組んだ指導、監査への帯同や行政手続法に基づく日程調整、取消処分を阻止した事例を紹介し、行政の実態について述べた。
 そして、監査の違法性を法廷で審理中にも関わらず、取消処分のための「聴聞」が強行された塩田訴訟について、司法の判断すら無視しようとする行政の不当性を厳しく批判した。
 さらに、行政との闘いでは、「闘い続ける」という不屈のメッセージを出し続けることが特に重要であるとして、一つ一つの的確な対応の積み重ねが事態の改善に結実していくことを強調。
 制度や構造全体の改革はもちろん、個別の保険医を守るために、今後も全力で取り組む決意を述べた。

 

「支援ネット」は開業医に必要なもの


 その後、フロアから最近うけた自らの取消処分について報告がなされるなど、活発な討議がなされた。

 参加者からは「本当にこのようなことが起こっているのかと驚いた」「日々診療をしている中で起こりうる単純な入力ミスなどを、揚げ足を取るような形で指導・監査が入ることはとても恐ろしいことだと思う」「『知識不足』が『不正請求』とされるとは驚きです。指導監査はおとなしく受けるものとばかり考えていましたが、闘うことの重要性がわかりました」「支援ネットの取り組みは開業医にとって重要であることが理解できた」「支援ネットに加入します」などの感想が寄せられ、また、「すべての保険医の代表として、患者さんのために闘って下さい」「行政手続法を国民の権利拡大の武器として闘い始めた原告の皆さん方に、心から連帯のメッセージを送ります」など原告への激励のメッセージも多数寄せられた。

 当日はマスコミ3社が取材に訪れ、翌日の地元紙などで報道された。

 

 

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