保険医訴訟支援7・3全国集会
「指導・監査・処分訴訟の現状と新たな運動の高揚を目指して」を開催

2010年7月3日

2010年(平成22年)7月3日、東京の砂防会館で「保険医への行政指導を正す会」と「指導・監査・処分取消訴訟支援ネット」共催による「保険医訴訟支援 7・3全国集会」が開催され、23都府県から88名が参加した。

集会では、去る2010年(平成22年)3月31日に甲府地裁で勝訴した「溝部訴訟」の原告代理人の石川善一弁護士が特別報告を行うとともに、各地で訴訟を闘う原告が現状と今後の決意を語った。

なお同集会には、「日経BP」「m3」「じほう」などが取材に訪れた。

高久隆範「支援ネット」代表世話人あいさつ

 開会挨拶で「支援ネット」の高久隆範代表世話人は、「指導・監査・取消処分改善の闘いは強大な行政機関の裁量権との闘いであり、人権侵害の加害者への“お願い運動”を何年やっても成果はない。自らは安全なところに身を置いて、闘う振りをすることは許されない」と、従来の指導・監査改善運動の限界を指摘。今回の集会が、指導・監査の抜本的改善への道筋をつけるものとなるよう、期待を述べた。

 

石川善一弁護士の講演から

 石川弁護士は「保険医登録取消処分等に関する甲府地裁判決の報告と制度上の問題点」と題して講演を行った。

 同弁護士は講演の冒頭、7月が奇しくも1776年7月4日のアメリカ独立宣言、1789年7月14日のフランス革命の始まりなど、生命の自由や幸福追求権などが自然権として発展する契機となった歴史を紹介、保険医等に対する指導・監査・取消処分についても、現在の状況が「夜明け前の暗い時期であって欲しい」と述べた。

 石川弁護士は3月31日の甲府地裁判決の意義について、(1)判決の結論とその理由、(2)これまでの判例からみた本判決の意義、(3)法制度全体からみた本判決の限界の3点を柱に解明し、特に保険医療機関に対する取消処分は厚労省自身が定める「療養担当規則」に基づいて行われることから対象を恣意的に選ぶことができ、その処分基準も不明確なうえに救済基準が極めて例外的なものであることを指摘。甲府地裁判決が、裁量権の濫用、逸脱の基準を示したことの意義を強調した。

 さらに各地の訴訟で、行政庁の主張を認める判決が出される事情として、溝部原告に対する監査に象徴されるような「監査調書=自白調書」が有力な証拠とされていることから、手続及び実体の適正性が保障されなければならないことを指摘した。

 また、強大な権限を持つ保険医等の取消処分の規定を設けたのが東條英機内閣(厚生大臣は小泉親彦陸軍軍医中将)の下で行われた昭和17年2月の健保法改正であり、この構造が基本的に変わっていないことから、健保法を①適正な実体、②適正な手続を定めるなど、憲法に適合したものに改正する以外にない、と結論づけた。

 

各原告の報告から

山本 哲朗 弁護士

個別指導は任意の協力に基づく行政指導に過ぎないが、「重い負担を伴う任意の行政指導」というのは行政手続法との整合性がない。監査での患者調査は、高齢者に数年前のことを聞き、思い出せないと架空の疑いなどひどいものだ。

全国で弁護士の立ち会いができるよう取組みを。私も積極的に取り組みたい。

 

塩田 勉 原告

現在、不当監査の国賠訴訟と処分取消訴訟を闘っている。大きな権力を持った者が、一国民を虐めるということが許されていいのか。日々辛い思いで過ごしているが、こんな状況は変えなければならない。

監査はひどい人権侵害、彼らは平気でウソをつく。裁判で勝訴すれば業界が変わる一歩になる。

 

溝部 達子 原告

医師会の役員などからの情報提供で個別指導が始まったが、当初から「取消処分は決まっている」と言われ、仕方なく監査調書に押印した。しかし、患者さんたちが「患者のいないところで、なぜ処分が決まったのか」と憤慨され、そこで医師として何をしなければならないか分かった。

甲府地裁判決は行政庁の裁量基準について主張が認められたが、事実関係の多くは国の主張を認めている。これから高裁段階での裁判が始まるが、法定の内外で闘いを進めたい。

 

成田 博之 原告

個別指導選定理由開示と返還金問題を争点に争っている。訴訟では総合的な対応が必要となる。各訴訟の到達点を整理し、指導・監査改善運動に反映させることが必要。

関係団体の中でも、従来の「お願い運動」から法的対応の必要性を言い出した。弁護士の理解も広がっており、歴史的発展を始めている。後戻りできない運動だ。

 

 

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