本稿は岡山県保険医協会の暮石智英指導監査対策室長よりご寄稿頂いたものです。
これまで指導監査対策室では個別指導や共同指導、監査、あるいは不当な指導監査に対する訴訟について膨大な資料や実態を収集分析してきた。
しかし集団指導に関しては、不参加に対する罰則がない、多人数に対する講習会形式で自身の診療実績を評価されないなど、保険医に与えるインパクトやダメージが比較的軽微であることから資料や実態の報告が少なく、詳しく分析できずにいた。
2011年(平成23年)12月15日、新規指定集団指導に参加する機会があり、多くの知見を得たので報告したい。特に当日配布資料は我々が長年探し求めていた厚労省による保険医いじめの「物証」であった。
この資料は厚労省が正式に作成したものであるにも関わらず虚偽の記載や誤解を招くような記載、あるいは保険医を萎縮させることが目的であると思われる表記など不当な指導の実態のオンパレードである。また口頭やスライドでの説明も意図の見える作為的なものばかりであった。ここにいくつか列記してみた。
診療録の項目中にある「修正等の履歴が確認できるよう、記載はペン等で行う」など
「すべての国民が、何らかの公的医療保険に加入している。」など
診療録の項目中にある「署名を記載の都度必ず行う。」など
厚生局職員であれば、まして個別指導を行う職員であれば知らないはずはない。
少なくとも「法的根拠が有るのか無いのか」や「遵守しなければならないのか参考にするだけで良いのか」などはYes・Noの二択の質問であり、時間をかける理由がない。
保険診療は「公法上の契約」と言いながら、契約内容=算定要件の説明もしない。
青本にも載っていない、質問にも答えない。
知る術を一切与えず、「知らないことが罪」であるならば保険医は全員罪人にされてしまう。
資料には「この登録(保険医登録)は、歯科医師国家試験に合格し、歯科医師免許を受けることにより自動的に登録されるのではない。歯科医師自らの意思により、所在地を管轄する地方厚生(支)局長へ申請する必要がある。」との文章が、スライドには「自らの意思により」の強調表示された文言を何度も繰り返し映写されていた。
当然であるが「自らの意思」であっても自身を守るための権利の行使を妨げるものではない。
「自らの意思により」購入したのであるから商品に対するクレームは受け付けない、「自らの意思により」就職したのであるから何も文句を言わずに働け、などはありえない。
配布資料に記載されているだけではなく、実際の指導で不当な指摘を行なっている事実が厚労省自らの手によって明らかにされた。
以上のように、法令によって規定された保険医としての義務と、通知にもない厚労省の勝手な言い分を混在させることによってそれらを既成事実化し、指導や監査で「ルール違反」として摘発しようとする意図が至る所にちりばめられている。
この他にも「保険医は、厚生労働省令の定めるところにより、健康保険の診療に当たらなければならない。」という健保法上の義務を「命令」と表記するなど、新規指定の集団指導は心理的な抑圧を加える場であった。
さらに、「仮に監査の場で、不正・不当な請求を行っていたことが明らかになれば、保険医療機関、保険医の取消等の厳しい行政処分が下される」との表記や「医療の多くが保険診療として行われている現在において、保険医療機関の指定や保険医の登録を取り消されることとなれば、医療機関の経営は成り立たなくなり、歯科医師が診療を行うことが実質的に不可能となる。」との表記など、取消等の行政処分が厳しいものであり、下された場合歯科医師生命が絶たれることを厚労省自ら認めている。
少なくとも今回の集団指導に参加された先生方はこの資料を大切に保管していただきたい。万一、将来個別指導や監査などに関する訴訟があった場合には自身の正当性と萎縮させようとする厚労省の悪辣な手法の証拠として大いに役立つはずである。
厚労省が「自らの意思により」資料を作成したのであるから少なくともこの資料に書かれていることについては厚労省が責任を負わなければならない。
また厚生局職員は集団指導を行っておきながら「知らなかったでは済まされない」のである。
指導 監査をめぐる動き
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