2013年9月11日に実施された新規個別指導では、「正しい個別指導」のあり方について3時間以上に渡り健康保険法や指導大綱、療担規則、行政手続法など多岐にわたって議論が交わされた。
今回の指導で示された療担規則に関する見解や持参物の任意性、カルテ閲覧の違法性に関する部分の概要を紹介する。
厚生局/少々早いのですが、先に持参物の確認をさせて頂きたいので、持参物を指導会場へお持ち頂きたいのですが。
暮石歯科医師/持参物を持ってくるのは義務ですか?
厚生局/お願いです。
暮石歯科医師/「お願い」に従わなかったらどうなりますか?従う従わないはこちらの任意ですよね。
厚生局/そういう事になります。
暮石歯科医師/カルテは持ってきてここにありますが、お願いということでしたら、指導が始まってからでもいいですよね。
厚生局/分かりました。では開始時間前になりましたら、またお呼びします。
暮石歯科医師/保険証のコピーを取るのは別に構わないですよね。
厚生局/コピー自体は構いませんが、コピーをするとモノが残りますから、その管理や廃棄を適切にお願いします。
暮石歯科医師/本来的には指導でカルテを見せるのを拒否しても、通るわけですよね。単なる「お願い」ですから。
厚生局/カルテの内容を見ないと確認ができませんので見させて頂けますか、とお願いをしています。
高久代表世話人/指導の目的は、保険診療の更なる質の向上と適正化でしょう。監査と同じように事実関係をチェックして、不正不当を探すのとは違うでしょう。
厚生局/違います。内容を確認させて頂いて、青本に沿った診療がされているかどうか確認させて頂くという格好です。指導ですから、この辺は改善して頂きたいという場合は、指摘をさせて頂くということです。
高久代表世話人/それは保険診療の質の向上とは違うでしょう。療担規則や療担規則と点数表の関係を指導して頂かないと、質の向上にはなりませんよ。
厚生局/カルテを見させて頂かないと、どういう内容か把握できません。レセプトの根拠としてカルテに記載されている内容を確認させてもらわないと。
暮石歯科医師/指導なのに、内容を確認するということがそもそもおかしいような気がします。それは監査ではないですか。
高久代表世話人/あくまで協力して頂く、という立場なんですよね。
厚生局/そうですね。行政指導ですから。
高久代表世話人/カルテ記載ですが、療担規則第22条では遅滞なく必要な事項を記載しないといけないとなっていますよね。書き漏れたことを後から加えてはダメなんですか?
暮石歯科医師/返戻や査定で認められなかった処置はカルテ上どうすればいいんですか?返戻が来た時点で、二重線で抹消していいんですか?
厚生局/個人的見解ですが、レセプトが返ってきた時点で分かる様に直せばいいと思う。理由を明記して。日付も残して。 証拠をきちんと残した上で直してもらえれば、後から追記したからと言って、問題にならないと思う。
厚生局/ご持参頂いたものを拝見させていただくということは出来ませんか?任意の協力です。お願いです。
暮石歯科医師/「お願い」に応じた場合、僕が守秘義務違反になる可能性はゼロですか?カルテを見るための検査証もない人に見せるわけですが…。
厚生局/行政が指導の場において、カルテを見たということで、取り扱って頂ければよろしいかと。行政として当然守秘義務は課せられていますので…。
暮石歯科医師/守秘義務のある人にだったら誰にでも見せていいんですか?
厚生局/守秘義務があるどなたにでも見せてよいと申し上げることはしませんけれども、この場において指導ということで行政としてお願いをしている部分ですから、仮に拝見させて頂いたとしても、我々から情報が漏洩することは当然守秘義務がありますから、ありませんので…
暮石歯科医師/僕が見せるというその行為、一点において、守秘義務違反が発生するんじゃないんですか?
厚生局/健保法73条に基づく個別指導は、受ける義務があるので受けて頂いている、行政指導の一環として持参物について行政側で確認させて頂いて、指導大綱に則った措置をさせて頂くわけです。協力して頂かないと、行政として指導が終わったことになりません。
暮石歯科医師/検査しないと指導が成り立たないのなら、そもそも指導大綱が法律に違反しているということになりませんか?上位の法律のほうが有効でしょう。
厚生局/まあ、そうですね。具体的な取扱いを決めているのが指導大綱ですから…。私達は行政官ですので、決められたことに沿って事務をなすというのが仕事ですから。
高久代表世話人/あなた方は指導大綱に従わなくてはいけないが、我々を拘束するものではないですからね。
厚生局/拘束はしない。お願いをしているわけです。任意の協力でお願いしますということで、お話をさせて頂いております。
高久代表世話人/カルテを見せる行為について、何ら法的に問題はない?
厚生局/それは、行政庁が指導のために見ましたとお答えしてもらえばよろしいんじゃないですか。
暮石歯科医師/患者さんにどう答えようが、裁判になった時に僕が負ける可能性がゼロなんですか、ということなんです。
厚生局/ゼロか100かと…言えないです。言えないでしょう。
暮石歯科医師/監査では守秘義務違反に問われる可能性はゼロですよね。カルテを見る検査証のある方に見せているんですから。個別指導でカルテを見せるということは、随分あやういことなんですよね。行政指導の場だから見せても罪にならないって、そんな無茶な話ないですよ。
高久代表世話人/今、罪にならないことはないって言いましたよね。
厚生局/そこはね…今までも聞いたことはないですし。私共は指導の場で持参物をお願いしていますし、先生方の協力を基に、見させて頂いているわけですから…。
暮石歯科医師/訴えられても我々が100%勝てるなら、見せることにやぶさかではないというだけの話ですよ。
厚生局/訴えられて裁判になったとしても、先生が負けることがないという確認ができればよいが、それが出来ない以上、協力はできないという認識でよろしいですか。
高久代表世話人/見せたくても見せられないという。
暮石歯科医師/これは僕に限った話じゃないです。全ての保険医にとって重大な問題です。今の個別指導のあり方そのものが法律に違反している可能性はないのかと言っているんです。
高久代表世話人/指導大綱にはそもそも診療録なんて書いていないでしょう。レセプトに基づきと書いてあるじゃないですか。カルテを見ることは、保険診療の質的向上とは全く関係がない。事実関係を確認して、不正不当を見つけようというそれだけでしょう。違いますか。そんなにカルテを見たかったら、このようにカルテを書きなさいというひな形を我々に示せばいいんですよ、あなた方はひな形を一回も示していないじゃないですか。それなのに人のカルテを見て、それであれがいけない、これがいけない、それこそおかしいんじゃないですか。でも協力しなれば、取消処分になるかもしれないという恐怖心からみんなカルテを出してしまっているんですよ。
暮石歯科医師/指導大綱には診療報酬請求書及び関係書類と書いてあるんですよ。レセプトとカルテ、根幹をなしているのはカルテです。ということは、レセプト及び関係書類の中に、カルテが入っているわけがない。そんな言いくるめは通じないでしょう。
(以上)
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