個別指導時に「カルテ閲覧」の権限はなく守秘義務・個人情報保護法に抵触のおそれ〜中国四国厚生局長が認め、本来の行政指導を実施

2013年9月11日実施の新規個別指導

「技官がレセプトに基づいて質問し、保険医がカルテに基づいて回答する懇談方式」の指導が今後の標準に。

2013年9月11日、中国四国厚生局長は、くれいし歯科クリニック西川原院(岡山市)への新規個別指導において、(1)個別指導の根拠法である健康保険法73条にはカルテ等を検査する権限がないこと、(2)個別指導において行政側にカルテを見せる行為は、医師・歯科医師の守秘義務違反及び個人情報保護法違反のおそれがあることを認めた。

今後行われる個別指導(=行政指導)において、指導のあり方が一変する画期的な成果といえる。

執拗に「カルテ閲覧への協力」を求める厚生局

 同指導にはW歯科医師(医院管理者)をはじめ、高久隆範理事(当支援ネット代表世話人)、竹内俊一弁護士(岡山県保険医協会顧問)、K岡山県保険医協会歯科部会幹事、同事務局2名が同席した。

 指導開始後、開設者である暮石智英歯科医師は、「持参したカルテを見せるにあたり、明確にしたい点がある」として、①指導で行政がカルテを閲覧できるとする法的根拠、②指導でカルテを見せる行為は医師・歯科医師の守秘義務に違反しないとする根拠について説明を求めたが、行政側は「カルテを見る権限はない」「カルテを見せることは守秘義務に違反するおそれが100%ないとは言えないが、見せてもらわないと指導が成立しない」と保険医側に違法のおそれのある行為を強要。更には「カルテを見せてもらえないなら後日改めて指導を行う」との主張を行った。

 これに対し、暮石歯科医師、高久支援ネット代表世話人をはじめ、竹内弁護士が反論。行政手続法や健康保険法、指導大綱が定める個別指導のあり方をめぐり広島厚生局へ照会のための中断も含め、3時間以上にわたり議論が交わされた。

法的枠組みを遵守した指導方式を行政側が提案

 その後、厚生局側からの提案により、技官がレセプトを元に質問し保険医がカルテを見て回答する方式で指導が実施され、「診療内容に指摘事項なし」との講評がなされた。

 講評後に意見を求められた暮石歯科医師は、指導中に行った質問への回答とあわせ、今回の個別指導について厚生局側の「改善報告書」を後日提出するよう求め、指導は終了した。

厚生局の顔色ではなく、患者と向き合う当たり前の医療実現への第一歩

暮石智英歯科医師の談話  

 画期的な個別指導が実現した。今後、個別指導時に行政側にカルテを見せてはいけなくなった。見せる必要がないのではない。見せてはいけないのだ。カルテを見せる事は犯罪行為である。その事実が明らかになった。利権の温床となり、多くの善良な保険医を放逐、死に追いやったシステムの一部に亀裂が入ったのだ。

 我々保険医を縛るシステムとして個別指導と監査がある。根拠法は個別指導が健保法第73条、監査が同78条である。行政側に検査権があるのは78条だけである。根拠条文が異なり検査権の有無も異なるにも関わらず、個別指導と監査はカルテの枚数が違うだけで全く同様の「検査」が行われてきた。この無法状態を行政は「監査に移行、ひいては取り消しにする」という脅迫をもって数十年間維持し続けたが、ようやく終焉の時を迎えた。今後は個別指導でカルテを見せるよう強要された時には行政に「検査権があることの証明」を求め、「行政サイドがレセプトを、保険医がカルテを見ながらの指導」を行うよう要求すれば良い。

 行政がカルテを閲覧できるのは監査の場だけになった。これまで指導の場でカルテを検査することを前提に組み立てられてきた保険ルール、点数表も改変を迫られるであろう。

 診療は行政の機嫌を取るために行うものではない。これからは点数表ではなく疾病や患者に向き合う「正常な」医療システムを構築しなければならない。この成果はそのための第一歩であり、ゴールではないのだ。

指導開始前のスナップ(撮影:高久 支援ネット代表世話人)

 

指導 監査をめぐる動き



New! 後を絶たない指導医療官の不祥事 健保法令の構造的問題が背景に〜“個人のモラル”への矮小化は不祥事の連鎖を防げない岡山保険医新聞 2016年12月10日号より


都道府県歯科個別指導における持参物について事務連絡 2014年9月25日 厚労省医療指導監査室長補佐


個別指導における「カルテ閲覧」の法的根拠を示せない厚生局〜患者が拒否してもカルテを閲覧できると強弁岡山保険医新聞2014年10月25日号より


【中国四国厚生局岡山事務所による新見解】個別指導でのカルテの限定開示、持参物を忘れた場合の対応、一部負担金を支払うことが出来ない患者への診療について岡山県保険医協会FAXニュース2014年10月1日号より


【談話】個別指導と守秘義務に関する日歯・大久保会長の見解について〜岡山県保険医協会 指導・監査対策室 室長 暮石智英岡山保険医新聞 2013年11月25日号より


【談話】指導における違法性 さらに浮き彫りに 2013年10月22日付 厚労省医療指導監査室長「事務連絡」について〜岡山県保険医協会 指導・監査対策室 室長 暮石智英岡山保険医新聞 2013年11月10日号より


【談話】法を無視した指導監査室の戯れ言と俗論を斬る!〜岡山県保険医協会 指導・監査対策室 室長 暮石智英2013年10月1日


【9月11日個別指導ダイジェスト】厚生局は保険医の了解を得なければカルテを閲覧できない。閲覧に協力した保険医側に個人情報・守秘義務違反の恐れあり2013年9月25日


個別指導時に「カルテ閲覧」の権限はなく守秘義務・個人情報保護法に抵触のおそれ…中国四国厚生局長が認め本来の行政指導を実施2013年9月11日


支援ネット 指導大綱・監査要綱 改定案2011年6月15日


寄稿/厚生局日野技官よ!知らなかったではすまないぞ〜新規指定集団指導で目撃した狡猾で悪辣な手法の数々 2011年12月15日


指導・監査国家賠償請求訴訟(国賠訴訟)Q&A 2010年11月28日


実録!録音妨害 2010年10月12日


個別指導に関する質問で不服審査請求 2009年4月1日


某病院に対する個別指導の指摘事項 2009年1月24日


質問に答えられなくても自分たちは問題なし、医療機関が知らなければ重大な過失 2008年11月5日


「不正請求」の解釈を拡大 2008年9月29日


個別指導への持参物は任意の協力。指導結果に従うか否かも「任意」 2008年8月10日

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