個別指導のあり方をめぐる国家賠償請求訴訟で国側は、
(1)個別指導は行政指導であり行政手続法に基づいて行われること、
(2)指導官の見解に異論がある場合は同意できない旨を述べ、指導に従う必要はないこと、
(3)指導に従わなかったことを理由に不利益な取扱はしないこと
など、原告の主張を大筋で認める見解を示した。
しかし行政側は、法廷で認めざるを得なかったこれらの内容を自ら実行することはない。法廷での闘いの成果を生かすためには、指導現場での取り組みを積み重ねる以外にない。
国側が法廷でイヤイヤ認めたこれらの内容を、最近実施された個別指導の現場でも認めさせた事例が生まれていることが明らかになった。指導当日のやりとりの概要を紹介する。
A:被指導者 B:保険指導医1 C:保険指導医2 D:医療管理官
保険指導医とは... 行政が医師会・歯科医師会に委嘱依頼をして、任にあたる非常勤職員
A:個別指導の最初にお尋ねしたいのですがよろしいですか?
持参物がたくさんあって用意するのが大変なのですけれども、これは義務ですか、任意ですか?
B:義務ですね。
A:これは義務なんですね。この指導はどういう法律に基づいているのですか?
B:先ほど説明させて頂いた法律等で・・・
健康保険法73条、船員保険法第28条、国民健康保険法41条及び高齢者の医療の確保に関する法律6...
A:そうですよね。そうしたら、この個別指導というのはカルテなどの持参物を見せなければならない、ということになるのですか?
先ほど「義務」とおっしゃいましたよね?教えてもらいたいのですが。
B:義務かどうか、ということですか?義務か任意かはっきり教えてほしいということですか?
A:そうです。カルテなどを見せなければならないのか、ということです。
B:・・・、(しばらく時間をおいて)「任意」でございます。
A:それでは、カルテの閲覧に関して権限がある、ということではない?
B:まあ任意ですから・・・ 、基本的には・・・ 、
A:初めてのことで分からないことばかりで、いろいろ調べてみたんです。
もし「カルテを閲覧する権限がある」というのなら質問とか検査ということになり、健康保険法の78条で身分を示す証明書や検査証、保険指導医の委嘱状などを見せて頂くことになりますが、そうなると監査になってくるんですよ。
「任意」とおっしゃったので、この個別指導は行政指導であり「検査証は必要ない」ということになるんです。
D:ご苦労様です。
A:いろいろお聞きしたいのですけれども、(あなたの)お名前は?
D:私、医療管理官のDです。
A:持参物がたくさんあって、準備するのが大変なのですけれども、この持参物というのは義務なのか任意なのかお聞きしたら、「任意」とはっきりお答えになられたのです。
「任意」でよろしいのですか?
D:持参物については法律で決められているということではないんですよ。
A:今回は73条、41条、66条、27条によって実施されるのですよね?
D:そうです。73条の行政指導ですから、先生には受けなければならない義務がありますね。
A:はい。
D:そういう意味で、例えば行政指導をするにしても、もちろんレセプトは収集しているのですけれども、カルテを見させてもらわないと指導にならない、ですからそこは、見させて頂くということで…、カルテは基本になるところなのでね。出してもらわないといけない。平成10年の通知にも書いてあるんですよ。
A:書いてあるというのは指導大綱ですか?
D:これは医療課長通知、指導大綱の中にはカルテまでは書いていないと思います。
ですから運営に係る通知の中にそういうものが書いてあるのと・・・、
A:「通知の中に」というのは何に基づく通知なのですか?
D:医療課長通知・・・ 。
A:その法的なものは・・・? 。
D:73条に基づいて実際の運用についてはそういうものに従ってやらないとできないわけですから、そこは指導する側の行政庁の裁量でやらせて頂いていると。
A:73条はここ(手元)にあるんですけれども、具体的にそれのどこに書いているんですか?
D:法律には書いていないのです。
法律には受けなければいけない義務があると書いてあって、これを受けて厚生労働大臣がどういうふうに運営をしていくか、日時、場所を決めたり、持ってくる資料を決めたり、持ってくる資料がないと指導ができないですから。
A:ですから、それは「任意」なんですよね?
D:もちろん任意と言えば任意ですね。
ですから、それはご協力頂かないと指導ができないということをご理解お願いしたいのですけれども。
A:先ほど聞いたように、73条、66条、41条ですね、カルテや持参物を見せて頂かないと、ということで・・・、
D:テープ入れとんですか?
A:もちろんです。
C:テープはご遠慮願いたい。
D:指導に入ったときにスイッチを入れて頂ければいいじゃないですか、今は指導に入る前の手続きの・・・、
A:先ほど「指導に入りました」というのを確認しました。
それで、カルテとか持参物を皆さんに見せなければいけないということは?
D:それは我々の職務ですから。見せて頂かないと指導ができない。
A:ということは「任意である」とご返答頂いたということで・・・ 、
D:任意か強制かということになればね、どこにもその法的根拠がないのですから、ただ73条に基づく運用でそうなっているということで理解して頂きたい。
A:「任意である」と解釈してよろしいですね?
D:任意か強制かということで言えばね。強制ではないですね。
A:さっきお聞きしたように、カルテ閲覧などの「質問検査の行使」というのは健保法の78条にありますよね。
D:78条は検査権ですから。監査、検査・・・ 、
A:でしたら今回の場合は、検査証とか証明書や委嘱状というものはないんですね?
D:ないです。
A:ないんですね。結局、個別指導というのは行政手続法に基づく行政指導ということでよろしいですね。
D:はいそうです。行政手続法第32条の・・・、
A:先ほどからお聞きしているように、指導内容に従う、従わないというのは任意であるということは間違いない?
D:そうです。受けるのは受けて頂いて、結果について従うか従わないかというところは任意、という制度になっております。
A:分かりました。最後の確認ですけれど、今お伺いしたことに関しては、他の保険医に情報提供させて頂いてよろしいでしょうか?
D:他の保険医に情報提供・・・、それは一般原則ですから結構です。
A:ちょっとBさんお尋ねしたいんですけれども、指導大綱の中に新規の個別指導がどこにあたるのか該当がないんですけど。もし分かる人がおられれば教えて頂きたいんですが。
B:集団指導、集団的個別指導と個別指導・・・。
A:個別指導の選定基準は1~7まであるんですが新規指導は該当がないんですよ。
この個別指導というのは、結局何かトラブルがあって、という意味合いではないんですか?
カルテに関しても指導を受けるというのはどういう意味かよく分からないんですけれども。
・・・。(返答なし)
A:開業して5年ぐらいになり、新規っていうのが・・・ 、
C:本来は、新規はもうちょっと早い時期というのが・・・ 、指導大綱の中ではこの7番に該当して、それを受けて・・・ 、
A:ちょっと待って下さい。指導大綱の選定基準の7番?。
C:それを受けて県の「大綱」の中に・・・ 、(注・正確には「(岡山県)保険医療機関等指導要綱」)
A:県の「大綱」ですか?
C:はい。県の「大綱」の中に新規指導というのがあるんです。
A:県の「大綱」の中に新規指導がある・・・ 、分かりました。
これは僕らが調べたら分かるんですか?正直、指導と言われると面食らうんですけど。
「これだけ用意してきなさい」「いついつ来なさい」って強制的に感じるから、「僕は悪いことしていないけど」ってイメージがあるんですよ。だからいろいろお聞きしたいのですが、どこに権限があるのか、ということがよく分からないですね。
C:「大綱」の中に・・・ 、
A:明文としてあるんですか?
C:皆さん読んでいるという、平等に読んでいるという・・・ 、
A:僕が勉強不足ですみません。皆さん当たり前に順番にという感じですか?
C:そうですね、順番は順番ですね。
B:原則的に新規の個別指導は全医療機関を順番に、たまたま時期がちょっと遅かったという・・・ 、
A:分かりました。僕の知り合いはもっと早いんですけれど。
A:指導というのは、都合というのは関係がないんですか?
B:本当にもう、どうしても正当な・・・ 、
A:「正当」というのは、営業していたら正当ですよね。
そこを休んで来い、というのは・・・、権限があるのかな、というのがお伺いしたかったことなんですよ。
B:「何があっても来い」ということは、もちろん・・・ 、
A:もし来なければ「拒否」ということで監査ということになるんですよね?
拒否ではないんですけど、都合が悪いという場合だったら、「正当な理由」というのはどういう理由だったら正当なのか、死んだとか事故したとかそういうことですか?
B:まあ、そうですよね。
A:義務ではなくて任意なのに「いついつ来い」というのはどうなのかな?と言う気がするんです。まあ、お役所の仕事ですから・・・、
B:・・・、
A:指導というのはこれからも度々あるものですか?
B:指導大綱に則ってやるので・・・、
A:今回新規指導を受けますよね、その後は定期的にあるんですか?
もしその時に都合が悪ければ変更できるということを確認できれば・・・、
B:変更ができないことはない。
A:指導はもちろん任意であろうが義務であろうが受けるんですが、それは一方的ですよね。
B:次回としてもこの(指導大綱の選定基準)1~7に該当しなけれ・・・、
A:1~7に該当しない、1~7というのは申し訳ないんだけど、よくない(請求)、ということですよね。
B:そうです。
A:よろしくない(請求)ということですよね。ここにあたっているからちょっとびっくりしたんです。
D:さっきの新規指導のことですけれどもね、岡山県の「要項」に入れているんです。平成10年3月の通知で追加になっているんですよ。新規と高点数の関係がね、それに基づいてやっているんです。
A:申し訳ないのですが、この個別指導の「実施通知書」じゃ分からないと思うんです。
73条だったら任意なのに、ちょっとこれは強制的なので。
D:個別指導を受けるのは強制ですよね。
A:そうなんですけど、内容に関しては78条に思われるんですよ。
新規の個別指導だったらここに・・・、
D:なんであなたが指導を受けるのか、という選定の基準というのは公表していないんですよ。
A:でも理由の分からないものを受けるというのも・・・、
D:それもあるんですけど・・・、
A:見てもらったら分かりますけど、きちっとやっていますから。
でも開業して5年経って新規はないと思うんですよ。
D:これは言い訳になるんで申し上げませんけれども、本来なら新規の指導というのは開業から6ヵ月経ってから1年以内にやるのが・・・、
A:「新規」と書くべきですよね。
D:指導大綱の中に選定基準というものがあるでしょう。新規とか再指導とか情報によるとか、諸々いろんな状況があって会計検査院とか、高点数とかいろいろあるんですけれども・・・、
A:Dさんにお聞きするんですが、どういう理由で個別指導を受けるのか分からないです。新規指導以外は全部悪いことですよね?「そこにあたるのかな」というのが1つ疑問だったんです。
D:先生がそう感じられるのと一緒で、通知に書いて選定理由を明らかにするということは、個人の情報の関係が・・・、相手に言わないという取扱いに、再指導だったら分かりますよね?
A:再指導はもちろん分かります。
D:情報とかだったら相手があることだから、申し上げられないですけど。
A:相手は僕じゃないですか。直接、僕じゃないですか。
D:それはですね、提供者の・・・、
A:それはちょっとよく分からないな。
D:情報というのはいろんな人達なんですよ。患者さんがありね・・・。
(この後、個別指導が行なわれた)
B:今日はお忙しいところありがとうございました。
講評となりますが、事務的なところを見させて頂きまして、とくになにもありませんので引き続きよろしくお願い致します。
A:はい。「事務的」というのは?
B:診療内容に関しても、本当に特に直して頂く部分というのはありませんでした。
非常によいカルテの記載内容も、外科処置の術式であったりとか、所見であったりとか、指導や管理料に関する書類等も申し分なく整備されておりましたので、今後ともいろいろな形で診療を続けていただけられたらと思います。
100点満点と言ってよいような内容でした。正式なものは文書で通知しますので・・・、
A:今回はどういうことに?
B:正式なものは指導結果として文書で通知します。
A:今回はどういう結果なんですか?
B:何もなければ「何もなかったです」という感じになります。
文書で通知はしないといけないので・・・、
A:OK?ということなんですか?
B:「概ね妥当」ということですね。
A:「概ね妥当」ということで。分かりました。
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