取消処分は「裁量権を逸脱し違法」東京高裁が国の控訴を棄却

2011年6月6日

 2005年(平成17年)11月、「無診察投薬」などを理由として取消処分を受けた溝部達子医師の控訴審判決が東京高等裁判所で言い渡され、園尾隆司裁判長は2010年(平成22年)3月31日の甲府地方裁判所の判断を支持し、国の控訴を棄却した。
 なお、一審で勝訴した事例は2008年(平成20年)4月の細見雅美医師の神戸地裁判決、2009年(平成21年)3月の飯塚真也歯科医師の福島地裁判決があるが、何れも高裁で逆転敗訴している。

 甲府地裁判決は、取消処分の理由となった「不正・不当請求」について、(1)患者のためを思っての行為であり、悪質性は高いとはいえないものが多いこと、(2)金額も多額ではないこと、(3)不正・不当請求とされた内容についても、自らの利益を追求するものではなく、患者の希望や要望に基づいて診察や処方を行ったものであること、(4)他事例で行われているように、個別指導を行った上で経過観察にしたり再指導の方法を採ることや、監査を行って他の措置を行うことも可能であったことなどを指摘し、取消処分は「社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであり、裁量権の範囲を逸脱したものとして違法となり、取消は免れない」と判決した。

 これに対し国は2010年4月、取消処分は「厚生労働大臣又はその委任を受けた地方社会保険事務局長の医療保険制度に関する専門的・技術的知見に基づく広範な裁量に委ねられる立法政策によっている」ことなどを理由として控訴していた。

 

《負の遺産を残さない》 溝部 達子 医師

 

 判決後の記者会見で溝部医師は、行政の裁量権逸脱を認めた判断について「高裁の誠意と勇気に敬意を表する。保険行政の長い暗黒に夜明けの光がさしてきた」と述べるとともに、多くの保険医がいつ取消処分を受けるかわからない恐怖の状態に置かれているとして、「負の遺産を若い医師に残してはならない。今後は、健康保険法の枠組みを変えるために尽力したい」と決意を語った。

 

 

《「裁量権の逸脱」で初の判例》 石川 善一 弁護士

 

 記者から判決の評価を問われた代理人の石川善一弁護士は、(1)「1シーズンで3回以上のインフルエンザウイルス抗原迅速診断検査は、必要な限度を超えた不当検査」とした取消事由に対して、「不当検査と認めるに足る証拠がない」として国の主張を退けたこと、(2)「無診察処方」についても、事実関係を詳細に検証し、多くの事例について「患者を対面診察している可能性が高いと言うべきであり、受診した事実がなかったと認めることはできない」と不正・不当金額を37万円に減額、この金額での取消処分は「裁量権の逸脱」となることを高裁段階で初めて認め、比例原則によって行政裁量に制限を加えたこと、(3)取消処分が極めて重大な不利益処分であることから、「処分理由となる行為だけでなく、その行為の動機など諸事情も考慮しなければならない」とした点など、高裁判決の意義を説明した。

 一方、(1)取消処分に至る聴聞会や地方医療協議会などの手続の違法性、(2)行政庁が決めた省令で処分を可能とする健保法の枠組みなど、立法論まで踏み込んだ判断がなされなかったことについては「今後の課題」とした。

 

 

《患者は子どもたち、国は争いを避けるべき》 田中 聡顕 代表

 

 溝部訴訟を支援してきた「山梨小児医療を考える会」の田中聡顕代表は、「患者思いの良い先生には、患者が集まることは至極当然のことで、その先生がねたまれ、一部の見えない力に動かされ、『個別指導』→『監査』→『取消』では、溝部先生ご自身の人権も損なわれる。かかりつけ医として頼りにしていた患者は”子どもたちである“ことを理解いただき、尊重していただいた裁判長に感謝を申し上げる。国は、これ以上の争いを避けるようにお願いしたい」との談話を発表した。

 


 東京高裁での記者会見後、甲府市の「みぞべこどもクリニック」で行われた地元メディアを対象にした会見には、多くのお母さん方が集まり勝訴を喜び合った。

 

 

溝部訴訟(山梨県)



保険医の取消処分を撤回させた溝部訴訟〜当事者が語る 2012年2月21日



講演会/まだ何も変わっていない 行政庁の広範な裁量権縛る必要訴え 2011年11月5日号




溝部訴訟勝訴報告集会/広範な行政裁量権に「法の支配」の拡大を2011年7月2日



溝部達子医師の談話2011年6月15日




保険医療機関指定・保険医登録の各取消処分の取消し(裁量権逸脱)を認めた東京高裁判決確定を受けての代理人弁護士コメント 2011年6月15日


談話/溝部訴訟 国が上告断念 代表世話人 高久隆範 2011年6月15日



溝部訴訟 高裁で初の勝訴 「行政裁量権」に比例原則を適用 2011年6月6日


傍聴記/溝部先生 控訴審でも勝訴 代表世話人 高久隆範 2011年6月1日



取消処分は「裁量権を逸脱し違法」東京高裁が国の控訴を棄却 2011年6月2日


溝部訴訟・控訴審が結審 2010年12月14日


溝部医師からのメッセージ 2008年9月22日




溝部訴訟の概要


弁論/甲府地裁 2009年2月3日


「取消処分は妥当」という主旨発言 2009年1月25日


溝部達子医師からの報告 全国保険医新聞 2008年12月25日号


保団連理事会で溝部原告が報告、理事会支援見送り 2008年11月10日


弁論/2008年10月14日 本人尋問 2008年10月18日


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