山梨県の溝部達子医師の取消処分をめぐる訴訟で国が上告を断念し、東京高等裁判所の判決が確定した。溝部達子医師が勝利し国の処分が違法と断罪され国が負けたのである。
我々が支援した訴訟で初めて、原告勝訴確定という日を迎えることができた。保険医の人権を無視した指導、監査に基づく処分が、司法の場で「違法」と決着がついたことは保険医運動史上初めての快挙である。少数の団体しか支援を組むことができない中で、提訴から5年7カ月の長期にわたり困難な状況のもとで闘い続けた溝部先生と、先生を支えてこられた石川善一弁護士及び「山梨小児医療を考える会」の皆様のご奮闘に心から敬意を表するものである。不屈の勝利である。
また、東京高等裁判所裁判官の見識と勇気にも敬意を表したい。
国(厚労省)はこれまで何をやってきたか。溝部医師に対する個別指導は、膨大なカルテや関係資料をコピーする「証拠集め」に終始し、監査の場では「保険行政には情状酌量はない」と断言され、精神的圧迫の下での「取り調べ」が繰り返された。「取消処分は決まっている」という山梨県医師会役員の発言にあるように、当初から「結論ありき」の処分のための指導であった。
保険医療機関等の処分を審議する地方社会保険医療協議会の公益委員に就任されていた石川弁護士が、委員を辞任して、聴聞の時から溝部医師の代理人となられたところにも、この事件の異常さが窺える。また、短期間に甲府市の人口の実に15%近い2万8,000人の署名を集め、処分の撤回を求める手紙が300通以上社会保険事務局長宛に送付されたという事実からは、溝部医師が地域医療になくてはならない存在であることを雄弁に物語っている。
確定した東京高裁判決は、不当請求とされたインフルエンザウイルス検査について国の主張を退けるとともに、不正請求とされた「無診察処方」についても多くの事実認定を覆すものとなった。さらに、「細見訴訟」や「飯塚訴訟」で大きな壁として立ちはだかった「行政裁量」に、比例原則に基づいて制限を加えたことは、健康保険法施行以来初の高裁判断として極めて大きな歴史的意義を持つものである。
我々は、溝部医師をはじめ、石川弁護士、「山梨小児医療を考える会」の皆さんの奮闘によって、多くの悲劇を生み出してきた指導や監査の改善、処分の在り方を根本的に変えるための大きな力を得ることができた。支援してきたものにとっても大きな喜びである。
勝訴確定により取消処分を行う行政裁量にも法の網がかけられた。これまで法廷内で無限大の裁量を主張してきた国に猛省を促したい。
溝部訴訟(山梨県)
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