2010年(平成22年)12月14日、東京高等裁判所で審理されていた溝部達子医師の控訴審が結審した。
園尾隆司裁判長は、「論点が多岐にわたっており、事実認定を検討して結論を出したい」として、判決期日は3月中旬から4月中旬になるとの見通しを示した。
溝部訴訟控訴審は、「取消処分は、社会通念上著しく妥当性を欠くことは明らかであり、裁量権の範囲を逸脱したものとして違法となり、取消を免れない」とした3月31日の甲府地裁判決を不服として国が控訴していたもの。
国側は、「(処分にあたっては)違反の程度と処分の重さが比例していることが必要」という溝部医師の主張に対し、「比例原則を厳密に適用することは裁量の余地を認めないという帰結となる」、そのことは「健康保険法80条、81条に基づく処分に裁量を付与した法の立法政策を否定するに等しい」などと反論。保険医療機関や保険医の取消処分に関しては、比例原則は一つの考慮要素に過ぎないとして、さらに「広範な裁量権」を求めている。
このような国の主張は、現在でも基準のない「行政裁量」の行使によって、誰が取消処分になってもおかしくない異常な状況をさらに拡大するものに他ならない。
溝部医師は弁論で、誰を個別指導の対象とするか、また、個別指導をした中で誰を監査とするか、さらに監査の措置として誰を取消処分とするかなど、指導の入り口から取消処分という出口まで、一連の流れに対し第三者のチェック機能が働かない「恐怖の行政下」で、(1)住友克敏元医療指導監査官などの収賄事件、(2)他方で保険医の自殺事件が相次いでいる事態について、「このような現象は、いわば個人的な病理現象ではなく、控訴人(国)主張の健康保険法令の枠組みによる制度的病理現象」であると指摘。司法によって、行政庁の「広範な裁量」を限定すること、さらに権限の行使について「法の支配」ないし本来の「法律による行政」が行われることの重要性を論証した。
弁論終了後、溝部医師は「今後の人生を、指導や監査、取消処分問題の改革と、健康保険法を変えるために力を尽くしたい。そのことが医療崩壊をくい止め、患者さんの利益にもつながる」と、未踏の世界に挑む決意を述べた。しかし一方、傍聴参加者からは「開業医にとって他人事ではない重要な問題にもかかわらず、なぜ医療関係者の全国的な支援組織がないのか」という疑問が出された。
不当な取消処分を受けた医師を支える患者さんと、その患者さんから「疑問符」を突きつけられる「医療関係者」の意識の隔たりは何なのか?
いずれにしても、溝部医師の視線は「高裁判決後」をしっかり見据えている。(H)
溝部訴訟(山梨県)
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