2012年(平成24年)1月14日、福岡県歯科保険医協会・福岡県保険医協会の共催による溝部達子医師、石川善一弁護士の講演会が開催され、その様子が福岡県歯科保険医新聞(2月20日付)に掲載されました。同協会のご厚意により下記に転載致します。
保険医取消処分とその決定過程が適切であるかを巡り、甲府市の小児科医・溝部達子氏は裁判に訴えた。昨年(2011年)5月、東京高裁は原告の溝部医師の訴えを認め保険医の取消処分を撤回させる画期的な判決を下した。国は控訴せず保険医の取消処分を撤回させた、わが国初の高裁判決が確定した。これが「溝部訴訟」である。
2012年(平成24年)1月14日(土)、福岡県歯科保険医協会は原告の溝部氏と代理人の石川善一弁護士を招き、「指導・監査・取消処分の現状〜溝部訴訟で何があったのか〜」と題する講演会を福岡市内で開催した。福岡県保険医協会との共催で医師、歯科医師、弁護士など150名が参加し、関心の高さを示した。
溝部氏は1995年に開業。2004年4月に個別指導を受け、翌年3月に監査となり、同年11月にみぞべこどもクリニック及び溝部氏は、保険医療機関及び保険医の取消処分となった。取消処分は、監査の後、聴聞を経て、地方社会保険医療協議会への諮問とその答申を受けて決定されるが、公益側委員の石川氏は、委員を辞して、聴聞の時から溝部医師の代理人となった。取消処分を知った患者も立ち上がり、クリニック存続を求める2万7千筆を超える署名を集めるなど、地元での信頼は厚い。「これらの活動には本当に支えられた」と溝部氏は感謝の辞を述べている。
溝部氏の個別指導は、「当初から取消処分ありき」の脚本に沿って進められた。聴聞の時に閲覧した、山梨社会保険事務局(現関東信越厚生局山梨事務所)作成の個別指導時の式次第にあたる「司会進行要領」に「不正請求を確認できたので指導を中断する」との記載が予めあったのだ。さらには誰の情報提供で個別指導に呼ばれたかも溝部氏は知り、その生々しい実態を淡々と語られた。
石川氏はルールを「実体」と「手続き」に分け、指導・監査及び処分決定過程のルール確立が求められ、高裁判決はそこまで踏み込んでいないとの認識を示した。判決の「不正不当の証明責任は行政(国)が負う」を評価し、人権最大尊重の原理(憲法13条)を基本とする「国民(患者)の受療権のための保険医(医師)の診療権を確保する」健康保険法の改正が今後の課題とした。
会場からは、不正をした保険医への擁護に関し質問がされた。石川氏は「不正を擁護しないという考えは正しい。ただし、適正な手続きの下で間違いなく『不正』と認められなければならない。仮に不正であってもそのことで下される処分が適切かどうかの判断もまた適切にされねばならない」と応え、不正イコール取消処分という考えを斥けた。
溝部訴訟(山梨県)
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