国が上告をしなかったことにより、ようやく本件各取消処分の取消しが確定(すなわち同処分の効力が消滅)した。取消処分がされて直ちに同処分取消請求訴訟を提起してから、実に5年半余りの歳月を要したことになるが、溝部医師の保険診療(診療の殆ど全部であり、その保険診療を受けることができるのは、患者の皆さんの権利である)が護られたことに、安堵している。同時に、これまでの長年に渡る、患者とその家族の皆さんの支援に感謝したい。
今回の東京高裁判決が確定したことの意義は、結論として、本件取消処分が「裁量権の範囲を逸脱したものとして違法となり、取消しを免れない」とされ、一保険医療機関の指定と一保険医の登録が護られたというにとどまらない。
同判決の理由を見ると、第1に、同判決が本件で国が主張する不当検査や「無診察処方」の一部の事実を認めなかったことは、一般的に、当然のことながら、「不正」「不当」の証明責任は国にあること(例えば、保険医がした検査について「診療上必要」がないことを国が医学的に証明しない限り、「不当」検査とはいえないこと)を明らかにしている。
第2に、監査要綱の定める取消処分基準に関し、同判決が「保険医療機関の指定及び保険医の登録の各取消処分が事実上、医療機関の廃止及び医師としての活動の停止を意味する極めて重大な不利益処分であることに鑑みると、健康保険法の解釈として、処分の際に考慮すべき事情がこれらに尽きるということはできず、処分理由とされるべき行為の動機をはじめとする上記の諸事情も処分に当たって考慮しなければならない」と明示したことは、厚労省が取消処分をするか否かに当たっては、監査要綱の定める同処分基準以外の諸事情も考慮すべきことを示している。
溝部訴訟(山梨県)
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