2009年(平成21年)2月3日、甲府地裁で「溝部訴訟」の弁論が行われ、国側が取消処分の根拠としている内容に事実誤認があることや、手続上の違法がさらに明らかになった。今回の弁論は、溝部原告の代理人である石川善一弁護士による主尋問を中心に行われた。
被告・国側はこれ以上の弁論を行わないことから証拠調べは終了し、3月24日に判決期日が明らかになる見通しとなった。
石川善一弁護士は、「非対面投薬」「ムダな検査」「カルテの加筆」など、国側が取消処分に該当するとしている「不正・不当」の事例について、溝部原告に事実関係を質した。
溝部原告は「非対面投薬」について、「この子は生まれてから300回以上診察しており病状は熟知している。非対面投薬はそういうケースに限られている」と、小児科では来院することで他の感染症に罹患する危険性など考慮する必要があり、医学的根拠を含め一定の条件のもとで本人に不利益にならない限り認められるべきではないかと、自らの病院勤務や小児救急センターにおける対応などを紹介した。さらに、「3回目のインフルエンザの検査料は不当請求」とされていることについて、子どもの感染症の特徴などから、所見だけで判断することの限界を説明し「感染症の可能性を除外するためにも必要な検査であった」こと、「3回目の検査は不当」などという通知は存在しないことを明らかにし、「不当請求」には該当しないと述べた。
「カルテの加筆」についても、記載不備を充実させたことが、個別指導時に4時間にわたってコピーされたものと異なる部分があったに過ぎないものであることを明らかにした。
石川弁護士の「保険医療機関が取り消された場合の影響は?」との質問に、「5年間の取消処分は医療の水準を維持できなくさせる。このようなリスクを背負うと『患者のために』という気持ちがなくなり、医療を歪めることになる」と、萎縮診療が患者に不利益をもたらすことを説明した。さらに監査時に「個別調書を認める」と記入した事情を問われ、「(監査は)議論する場ではないと思った」と、抗弁を許さず精神的に追い詰めて署名・押印を強要する不当な監査の実態を明らかにした。
石川弁護士の主尋問の後、裁判官から溝部原告に対し、(1)レセプト委員からの指摘や注意の中で、「非対面診療」など今回不当とされているものについて指摘があったか、(2)処分の背景として小児科医会の中で対立はあったか、などの質問が行われた。
溝部原告は、レセプト委員からは今回不正・不当とされている事項についての指摘はなかったこと、病児保育の開設をめぐって、小児科医会から「やめるように」といわれ断念したものの、その後、県や父母からの要望があり病児保育を始めたという経緯を説明。「小児科医会とはいい状態ではないと感じていた」と証言した。裁判官による質問は、指導・監査の発端となった事実と取消処分の原因とされている内容が異なるものであること、処分の背景に小児科医会の思惑が働いていることを疑わせるものとなった。
弁論終了後弁護士会館で記者会見が行われ、共同通信社など3社が参加した。
石川弁護士は今回の弁論で、①「未来院」など不正とされているものに事実誤認があることなど実体上の違法、②聴聞で不正とされている患者が個別具体的に明らかにされないまま処分を行うなど手続上の違法が明らかにされたことを指摘。
例え規則違反があったとしても、公平原則・比例原則に基づいて考慮されるべきであることを強調した。
「支援する会」の田中聡顕会長は、「溝部先生が取り消されると我々親も子どもも困る。先生は子どもの状態をよく知っており、まさにかかりつけ医。家族同様だ」と、処分撤回のために全力を尽くす決意を表明した。
溝部原告は、「裁判になって指導や監査の実態を知れば知るほど驚く。患者さんに何もしなければこのようなことにはならいだろうが、それは医療崩壊の一端を担うことになる。『戒告』と『取消処分』、いわば執行猶予と死刑しかない仕組みは問題」と、指導や監査の問題点を指摘した。
参加した記者からは、「処分は何に基づいて決められるのか」「何が取消の理由になっているのかよく分からない」など質問が寄せられた。
溝部訴訟(山梨県)
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