溝部訴訟 勝訴報告集会
広範な行政裁量権に「法の支配」の拡大を

2011年7月2日

2011年(平成23年)7月2日、大阪市内のチサンホテル新大阪で溝部訴訟勝訴報告集会が開催され、東京高裁判決の意義を学ぶとともに、同判決の到達点を生かし保険医に対する指導・監査・処分改善のための取り組みをさらに推進することなどを確認した。

同報告集会は、青森県の「保険医への行政指導を正す会」と、当会が事務局を担当する「指導・監査・処分取消訴訟支援ネット」が共同で開催したもので17都府県から定員を上回る54名が参加した。

 報告集会では、溝部達子医師の代理人として歴史的な勝訴に導いた石川善一弁護士が「東京高裁H23 .5.31判決の報告〜保険医登録取消処分等における行政庁の広範な裁量権との闘い〜」と題して講演を行うとともに、「山梨小児医療を考える会」の山本大志副代表、溝部達子医師が報告を行い、活発な質疑が交わされた。

 

全保険医が指導・監査の「潜在的対象者」

 石川弁護士は、昨年7月3日に開催した溝部訴訟支援集会の際に、1776年7月4日の「アメリカ独立宣言」に触れたことを振り返り、溝部医師の代理人となって行政庁の絶大な権力の下にある医療界の遅れた実態(絶対王政に対する市民革命によって「法の支配」が確立し、やがて日本にも及んできた歴史に照らしての「遅れ」)に驚きを感じたと述べ、溝部医師の個別指導選定から取消処分に至る法的諸問題について解説を行った。

 同弁護士は溝部医師の取消処分の経緯から、健保法上の処分権限は80条(保険医療機関の指定)及び81条(保険医の登録)に規定されているだけであり、(1)その運用は「保険局長通知・別添」の「監査要綱」によって取り扱われること、(2)「監査要綱」における処分基準は4類型しかないこと、(3)さらに「監査要綱」には不正・不当を区別する規定はなく、「重大な過失」「しばしば」の判断も行政庁の裁量によることなどを指摘。実体法規からは、行政庁の裁量(=誰を指導や監査の対象にするのか、監査後の処分をどうするか)に制限はなく、現在の健保法令の下では指導・監査の「潜在的対象者は全ての保険医」であると指摘した。

 

東京高裁判決の歴史的意義

 同弁護士は、控訴審で争われた(1)取消処分の前提とされた事由が全て認められるか、(2)認定された事実が、取消処分の基準に該当すると評価できるか、(3)取消処分が、平等・比例原則に反する違法なものではないのか、という実体上の違法性及び、(4)処分の理由の提示の適法性、(5)聴聞手続の適法性、(6)聴聞終結後の手続の適法性など、手続的適法性をめぐる争点について、国側の主張及び溝部医師の主張、甲府地裁判決及び高裁判決を対比し、東京高裁判決の意義ついて詳細な解明を行った。

 特に、甲府地裁判決で国側の主張を認めていた「非対面処方」やインフルエンザ検査の回数制限について、刑事事件と同様に一般の行政処分の取消請求訴訟においても、不利益処分の原因となる事実の証明責任(=立証責任)は国にあることから、「診療上必要」でないことについては国が医学的に証明しない限り「不当検査」とはいえないと認定したことを評価した。

 さらに比例原則の観点から、「監査要綱」が定める取消処分の基準以外の諸事情も考慮しなければならないとした、初となる高裁判断について、過去の判例と比較しながらその歴史的意義を指摘した。

 

「制度的病理現象」の治療法

 同弁護士は、健保法に基づく取消処分の立法政策が大日本帝国憲法下の昭和17年2月改正時から基本構造が変わっていないことから、保険医の側にある「いつ取消処分になるか分からない」という恐怖心を背景に多発する指導医療官等による贈収賄事件、一方で指導や監査が原因と思われる保険医の自殺など悲劇が繰り返される事実を「制度的病理現象」(=健康保険法令の枠組みの構造的問題)と指摘。その上で、今回の訴訟を通じて実現されたように、個々の指導・監査・処分において行政庁の広範な裁量権に対する限定解釈(=「法の支配」の観点に基づく解釈)拡大のための取り組みをすることに加えて、根本的な解決のためには、原因(=法、政令、省令、通達)に働きかける運動を進めることの重要性を指摘し、医療関係団体の取り組みに期待を述べた。

 

 

溝部訴訟(山梨県)



保険医の取消処分を撤回させた溝部訴訟〜当事者が語る 2012年2月21日



講演会/まだ何も変わっていない 行政庁の広範な裁量権縛る必要訴え 2011年11月5日号




溝部訴訟勝訴報告集会/広範な行政裁量権に「法の支配」の拡大を2011年7月2日



溝部達子医師の談話2011年6月15日




保険医療機関指定・保険医登録の各取消処分の取消し(裁量権逸脱)を認めた東京高裁判決確定を受けての代理人弁護士コメント 2011年6月15日


談話/溝部訴訟 国が上告断念 代表世話人 高久隆範 2011年6月15日



溝部訴訟 高裁で初の勝訴 「行政裁量権」に比例原則を適用 2011年6月6日


傍聴記/溝部先生 控訴審でも勝訴 代表世話人 高久隆範 2011年6月1日



取消処分は「裁量権を逸脱し違法」東京高裁が国の控訴を棄却 2011年6月2日


溝部訴訟・控訴審が結審 2010年12月14日


溝部医師からのメッセージ 2008年9月22日




溝部訴訟の概要


弁論/甲府地裁 2009年2月3日


「取消処分は妥当」という主旨発言 2009年1月25日


溝部達子医師からの報告 全国保険医新聞 2008年12月25日号


保団連理事会で溝部原告が報告、理事会支援見送り 2008年11月10日


弁論/2008年10月14日 本人尋問 2008年10月18日


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